審査員 林 昌二
「かたつむり山荘」をなぜ推したか
私は「かたつむり山荘」を推しました。他のお二人は、これは「山持ちのお道楽」だとして、大賞にはふさわしくないとされました。2対1でしたので、最後はお二人の結論に同意したものの、私としては「かたつむり」に「時代的先駆性」(選考内規)を感じていました。
2つの視点からです。1つは「地産地消」。すぐ近くで採れた木材で作った家を、20年経って移築してさらに10年、これから使いこんでゆこうという「かたつむり」は、省資源・省エネルギーの典型です。日本の林産資源は、既に十分な建築用材を供給できる状態になっていて、国産材を積極的に利用・再生させてゆくことが、国土保全の上からも望まれているのに、市場原理は、輸入材依存から抜け出す道を塞いでいます。建築家としてどう行動し、提案すべきかが、問われています。
いま一つは、「過剰精度の否定」。工業化社会は精度の美学をつくり上げ、木製型枠の打ち放しでさえ、ミリ単位の精度を誇るに至り、ついに建築全体にツルツルピカピカが及びました。ここには高品質の工業製品で成功した現代日本の価値観が転写されていますが、建築物には元来そんな精度は必要がありません。壁や天井はデコボコでも暮らせるのです。精度を誇る日本で、過剰精度の否定モデルを提案した先駆性は貴重です。
私たち3名に与えられた課題は、第1次審査を経た作品5件(埼玉県立博物館、神奈川県民ホール、上遠野邸、目神山の家、かたつむり山荘)につき、現地訪問を含めて審査を行い、1件を選び出すことでした。審査の時期に先約の都合が重なってしまい、どうしても訪問できない先が残ったのは申し訳ないことでした。しかし「埼玉」と「神奈川」は、しばらく前に別の目的で訪問し、詳しく説明を受けていましたし、「上遠野邸」と「目神山」は、建築家のお人柄にも作品にも接していました。ただ、山本長水さんの「かたつむり山荘」だけは、ぜひとも現地を訪れなければ理解できそうにないと感じていたところ、幸い訪れる機会を得ました。この山荘は結局大賞の対象にはならずに終わりましたので、私がなぜ「かたつむり」にこだわったのか、理由を記してご参考に供した次第です。 |