第3回日本建築家協会25年賞
講 評

植木 浩

 今年は、13点の候補の中から第2次審査を経て6点が選び出され、さらに最終審査の対象となったのは、横浜市青葉区にある「桜台コートビレジ」と東京都渋谷区の「代官山ヒルサイドテラス」の2つであった。
 「桜台コートビレジ」は、田園都市線沿線の緑の多い住宅地の一角にあり、1970年に東急多摩田園都市総合開発計画の拠点として造られたものである。
 横に細長い急斜面の敷地に、その空間特性をうまく生かしながら、緑に囲まれるようにして建てられている。集合住宅といっても、四角い弁当箱型ではなく、積み木を斜め向きに積み重ねていったような形をしており、ヒダの多い雁行型になっているところが面白い。
 四角い箱を分割していって、画一的なパーツとして個々の住宅を置いたのではなく、一つ一つの住宅をいろいろと組み合わせることにより、変化に富んだ総体が出来あがっているのである。各住居それぞれが、個性を主張しているような空間構成となっていて、住宅と住宅を結ぶ路地空間も、ラビリンス(迷宮)に迷い込んだような楽しさが感じられる。
 内井昭蔵氏の設計によるものであるが、今から30年ほど前に構想され、建築されたということは注目に値することであり、同時に田園都市住宅開発へのディベロッパーの情熱も伝わってくる。また入居している人達のコミュニティー意識も大変高く、建物とその環境の維持管理も良く行なわれてきている。
 一方、「代官山ヒルサイドテラス」の位置する場所は、かつての屋敷町であるが、今は市街地の大通り(旧山手通り)に面し、昔からのエレガンスが残っているエリアである。
 このヒルサイドテラスは、住宅と店舗と広場等パブリックスペースなどから構成されているが、槇文彦氏の設計により、第1期計画(1969年竣工)のA、B棟、第2期計画(1973年竣工)のC棟をはじめとして、第6期計画にいたるまで、四半世紀にわたる時間の流れの中で、連続的、連携的に構築されてきたものである。
 ヒルサイドテラスの魅力は、第一に代官山の街づくりと一体化しつつ、コンテンポラリーな代官山の新しいイメージを創成したことであろう。白い明晰さと、決して重くはなり過ぎない爽やかさを基調とし、幾何学的とも言えるすっきりした造形性は、新鮮で、未来の風を感じるような新しい都市風景をつくり出している。
 第二には、私的空間と公共的空間、実用的生活空間と文化的空間が、巧みに組み合わされていて、都市の新しい魅力を開花させていることである。さらに、施主と建築家とのよき協力関係という視点からも、成功している例であるといえよう。
 このような「桜台コートビレジ」と「代官山ヒルサイドテラス」の二つの中から、いずれか一つを選ぶということは、なかなか大変なことであった。いずれも地域の環境づくりにおける、建築や建築家の役割を明確に示している好例である。
 しかし私としては、「現在に生きている建築」(architecture vivante)として考えた場合、そのスケールの大きさ、社会的発信力の強さ、そして今なお発展し続けていることなどの点も考慮に入れて、ヒルサイドテラスを選ぶことにした次第である。
 それにしても両者とも、建築や建築家と社会との関係を考える上で、大きな示唆を与えてくれる優れたモニュメントであることには間違いない。