日本建築家協会(JIA)は建築家が集う公益社団法人です。
豊かな暮らし、価値ある環境、美しい国をデザインします。
JIAでは、すぐれた建築作品を顕彰し、建築文化のすばらしさや価値を社会に発信しています。
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総評
2022年末、アンコールワットでの地元子供達による写生ワークショップの後、トレンサップ湖のほとりに広がる水上集落コンポンプルック(KampongPhluk)に訪れる機会を得た。水上集落というから、水面近くに家が浮かんでいると思っていた。ここは乾季と雨季で水面が10mほど変化する。今は乾季なので、水面は低く、高床式の平屋の住宅が湖に続く川沿いに、ツリーハウスのようにニョキニョキ建っている風景が広がっている。彼らは、細い木製の杭のような柱の上に、平家を建てて住んでいる。その下のピロティ状空間には、鶏を飼い、漁業の道具、舟などを収納している。テラスで休んだり、洗濯をしたり、子供たちが犬と遊んだりして住んでいる姿と建築に、人間のたくましさが見られ感動した。 一方で、彼らは土地を持つことができないために、このような環境変化の激しい場所に住んでいる。排泄物はそのまま川へ流し、湖の水を飲み、川魚を食べ、生活をしている。近年の都市化によって、さらに水質は悪化、温暖化や上流の河川のダム等の開発によって、水量は減り、唯一の収入源である漁業もダメージを受け始めた。水上集落には学校があるが、子供達も働かなくてはならない。 私は向かう車中で、この水上集落の調査資料や論文を読んだ時に、人と建築と自然の見事な最適解であると感じたが、実際訪れ、匂い、プラゴミ、環境の変化、私たちの生き方とは大きく違う、現地で感じた違和感はなんだろうか。単に珍しい楽しいではなく、超地球人として学ぶべきことは学び、私たちができることは実践し、環境について考えることが改めて大切だと感じた。
23回目を迎える今年度は、前年度同様、全体的にバリエーションに富んだ応募であった。特に、今年は都市レベルの建築、まちづくりや、公園、敷地外への連続性を持つプロジェクトが多かった。特に公開審査では、クライアントもプレゼンテーションに参加し、協業して新たな枠組みを実現した建築プロジェクトが評価され、設計者を超えて環境建築への眼差しが社会的広がりを持ち始めていると感じた。 応募内訳は、募集は8月2日から開始し、8月30日に締め切らた。21点の応募があり、そのうち3点が応募対象外となり、18作品にて9月14日に一次審査が行われた。一次審査の結果、現地審査作品7作品が選ばれたが、1作品が現地審査を辞退され、6作品にて現地審査を行った。設計者やクライアントと対話することで議論を深めていった。例年の公開審査は、審査委員のみが集まり、設計者はすべてオンライン参加であったが、今年は、応募者がJIA建築家会館に集まり、対面での公開プレゼンテーションだった。
その結果、第3回目のJIA環境大賞は「リバーホールディングス両国」が受賞した。この建築は、下町に建つ低層オフィスでありながらも、敷地の光や風環境を読み解き、丁寧なシミュレーションを行いながら建築を設計している。シミュレーション建築にありがちな、数値優先の建築ではなく、この建築においては、働き方や、人々のアクティビティまでパラメーターとして考え、照明、デスク、働く内容までも丁寧に読み込んで、設計をまとめている。これらのシミュレーション結果と、設計者本人の感性の融合が新たな形態をうみ、何よりも現地審査において、多様でありながらも居心地がよい不均質空間の連続が、ワーカー全てを緩やかに包み込んでいる。最後の投票では「武蔵野グリーンセンター・むさしのエコreゾート」と票を分ける形になったが議論の末、大賞は全員一致で「リバーホールディングス両国」に決定した。
優秀作品としては再度投票を行い、「風と生きる花ブロックの家」、「武蔵野グリーンセンター・むさしのエコreゾート」、「千葉大学墨田サテライトキャンパス」が選ばれた。
「風と生きる花ブロックの家」は、断熱材ゼロの住宅だ。設計者はクライアントからの要望である健康をテーマにしている。まず沖縄の断熱基準を疑い、自分で調査し、断熱ではなく通風と遮熱であると結論づけた、新しい環境建築の方向性を示している。「武蔵野グリーンセンター・むさしのエコreゾート」は行政と敷地を越境して電力を供給し、公園として都市部に共存する取り組みが評価された。「千葉大学墨田サテライトキャンパス」は、既存ストックの不適合を解消し、永続的に使えるようクライアントともに運営までもセットで考えていく手法が評価された。
環境建築とは、その地域性や歴史性、社会を包含するものであり、建築単体ではない視座が必要だ。それは決して、建築家個人の力だけではなく、クライアントともに街の人と一緒に俯瞰して世界そのものを見ることあり、考えることだと思う。それが超地球人としての建築家の在り方だと思う。
審査委員長 小堀哲夫
第23回 2022年度 JIA 環境建築賞
2022年末、アンコールワットでの地元子供達による写生ワークショップの後、トレンサップ湖のほとりに広がる水上集落コンポンプルック(KampongPhluk)に訪れる機会を得た。水上集落というから、水面近くに家が浮かんでいると思っていた。ここは乾季と雨季で水面が10mほど変化する。今は乾季なので、水面は低く、高床式の平屋の住宅が湖に続く川沿いに、ツリーハウスのようにニョキニョキ建っている風景が広がっている。彼らは、細い木製の杭のような柱の上に、平家を建てて住んでいる。その下のピロティ状空間には、鶏を飼い、漁業の道具、舟などを収納している。テラスで休んだり、洗濯をしたり、子供たちが犬と遊んだりして住んでいる姿と建築に、人間のたくましさが見られ感動した。
一方で、彼らは土地を持つことができないために、このような環境変化の激しい場所に住んでいる。排泄物はそのまま川へ流し、湖の水を飲み、川魚を食べ、生活をしている。近年の都市化によって、さらに水質は悪化、温暖化や上流の河川のダム等の開発によって、水量は減り、唯一の収入源である漁業もダメージを受け始めた。水上集落には学校があるが、子供達も働かなくてはならない。
私は向かう車中で、この水上集落の調査資料や論文を読んだ時に、人と建築と自然の見事な最適解であると感じたが、実際訪れ、匂い、プラゴミ、環境の変化、私たちの生き方とは大きく違う、現地で感じた違和感はなんだろうか。単に珍しい楽しいではなく、超地球人として学ぶべきことは学び、私たちができることは実践し、環境について考えることが改めて大切だと感じた。
23回目を迎える今年度は、前年度同様、全体的にバリエーションに富んだ応募であった。特に、今年は都市レベルの建築、まちづくりや、公園、敷地外への連続性を持つプロジェクトが多かった。特に公開審査では、クライアントもプレゼンテーションに参加し、協業して新たな枠組みを実現した建築プロジェクトが評価され、設計者を超えて環境建築への眼差しが社会的広がりを持ち始めていると感じた。
応募内訳は、募集は8月2日から開始し、8月30日に締め切らた。21点の応募があり、そのうち3点が応募対象外となり、18作品にて9月14日に一次審査が行われた。一次審査の結果、現地審査作品7作品が選ばれたが、1作品が現地審査を辞退され、6作品にて現地審査を行った。設計者やクライアントと対話することで議論を深めていった。例年の公開審査は、審査委員のみが集まり、設計者はすべてオンライン参加であったが、今年は、応募者がJIA建築家会館に集まり、対面での公開プレゼンテーションだった。
その結果、第3回目のJIA環境大賞は「リバーホールディングス両国」が受賞した。この建築は、下町に建つ低層オフィスでありながらも、敷地の光や風環境を読み解き、丁寧なシミュレーションを行いながら建築を設計している。シミュレーション建築にありがちな、数値優先の建築ではなく、この建築においては、働き方や、人々のアクティビティまでパラメーターとして考え、照明、デスク、働く内容までも丁寧に読み込んで、設計をまとめている。これらのシミュレーション結果と、設計者本人の感性の融合が新たな形態をうみ、何よりも現地審査において、多様でありながらも居心地がよい不均質空間の連続が、ワーカー全てを緩やかに包み込んでいる。最後の投票では「武蔵野グリーンセンター・むさしのエコreゾート」と票を分ける形になったが議論の末、大賞は全員一致で「リバーホールディングス両国」に決定した。
優秀作品としては再度投票を行い、「風と生きる花ブロックの家」、「武蔵野グリーンセンター・むさしのエコreゾート」、「千葉大学墨田サテライトキャンパス」が選ばれた。
「風と生きる花ブロックの家」は、断熱材ゼロの住宅だ。設計者はクライアントからの要望である健康をテーマにしている。まず沖縄の断熱基準を疑い、自分で調査し、断熱ではなく通風と遮熱であると結論づけた、新しい環境建築の方向性を示している。「武蔵野グリーンセンター・むさしのエコreゾート」は行政と敷地を越境して電力を供給し、公園として都市部に共存する取り組みが評価された。「千葉大学墨田サテライトキャンパス」は、既存ストックの不適合を解消し、永続的に使えるようクライアントともに運営までもセットで考えていく手法が評価された。
環境建築とは、その地域性や歴史性、社会を包含するものであり、建築単体ではない視座が必要だ。それは決して、建築家個人の力だけではなく、クライアントともに街の人と一緒に俯瞰して世界そのものを見ることあり、考えることだと思う。それが超地球人としての建築家の在り方だと思う。
審査委員長 小堀哲夫