日本建築家協会(JIA)は建築家が集う公益社団法人です。
豊かな暮らし、価値ある環境、美しい国をデザインします。
JIAでは、すぐれた建築作品を顕彰し、建築文化のすばらしさや価値を社会に発信しています。
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総評
ちょっと先の非日常が日常になっていく。未来を考えたとしても脆くも予想が外れていく。ちょっと先のこと、ちょっと前のことを考えつつ、今の瞬間を大事に生き、その時はその時考えよう。そんなことをまた考えた一年であった。日本の神道の歴史観で「中今」という言葉がある。これは簡単に言うと今を最大化して生きるということだが、過去の失敗や未来の予測できないことに一喜一憂する毎日を生きる以上に、今の時間や空間を楽しもうと言う考えだ。つまり過去と未来に押しつぶされず、大きく空間的に今の自分や社会を捉える。新型コロナウイルスによって、日常の大切さとは何かを根本的に考え直そうと思った。そんな中、京都で茶会に参加した。小さな空間で行われる茶会は、無言であっても、人と人との濃密な時間と空間を生む。まさに一期一会であり、今の瞬間を最大化していた。日々是好日も同じ意味だ。人はどんな小さな場であっても言葉少なくても会わないといけないと思う瞬間だった。 第22回目を迎える今年のJIA環境建築賞は、昨年より建築単体だけでなく、建築行為によって面的に広がることも1つの環境建築として評価しようと考えたこともあり、全体的にバリエーションに富んだ応募であった。まちづくりや広範囲に捉えた作品、リノベーションの新しい可能性を示した作品も多く、現地審査に惜しくも残らなかったが、優れた作品が数多く寄せられ、環境建築賞の可能性や、環境に対する意識や広がり、そして範囲の多様さに改めて、感動をした。 応募内訳は、建築作品として37作品、活動として1作品の応募があった。審査委員6名が事前に書類審査と議論を行い、現地審査候補を9作品(住宅1件、一般7件、活動1件)に絞って現地へ赴き、設計者やクライアントと対話することで議論を深めていった。例年の公開審査は、昨年同様、今年は審査委員のみがJIA建築家会館に集まり、設計者はすべてオンラインでの公開プレゼンテーションとなった。 その結果、第22回のJIA環境大賞は「上勝ゼロ・ウェイストセンター」が受賞した。この建築は、新たな建築の可能性を大きく広げた作品である。自治体として初めてゼロウェイスト宣言を行い、建築家自らが取り組みに共感しつつ伴走し、新たな価値提案をすることにより実現した建築である。さらに上勝の主要産業であった林業に目を向け、木材を丸太のまま使うことで材料の最大化を計ったことなども含め、建築そのものがゴミの出ない循環として息づいている。この取り組みや運営方法や、建築のあり方は、世界的に進んでいる循環経済社会における、日本での先駆けとして、大いに評価できる作品であった。
審査委員長 小堀 哲夫
第22回 2021年度 JIA 環境建築賞
ちょっと先の非日常が日常になっていく。未来を考えたとしても脆くも予想が外れていく。ちょっと先のこと、ちょっと前のことを考えつつ、今の瞬間を大事に生き、その時はその時考えよう。そんなことをまた考えた一年であった。日本の神道の歴史観で「中今」という言葉がある。これは簡単に言うと今を最大化して生きるということだが、過去の失敗や未来の予測できないことに一喜一憂する毎日を生きる以上に、今の時間や空間を楽しもうと言う考えだ。つまり過去と未来に押しつぶされず、大きく空間的に今の自分や社会を捉える。新型コロナウイルスによって、日常の大切さとは何かを根本的に考え直そうと思った。そんな中、京都で茶会に参加した。小さな空間で行われる茶会は、無言であっても、人と人との濃密な時間と空間を生む。まさに一期一会であり、今の瞬間を最大化していた。日々是好日も同じ意味だ。人はどんな小さな場であっても言葉少なくても会わないといけないと思う瞬間だった。
第22回目を迎える今年のJIA環境建築賞は、昨年より建築単体だけでなく、建築行為によって面的に広がることも1つの環境建築として評価しようと考えたこともあり、全体的にバリエーションに富んだ応募であった。まちづくりや広範囲に捉えた作品、リノベーションの新しい可能性を示した作品も多く、現地審査に惜しくも残らなかったが、優れた作品が数多く寄せられ、環境建築賞の可能性や、環境に対する意識や広がり、そして範囲の多様さに改めて、感動をした。
応募内訳は、建築作品として37作品、活動として1作品の応募があった。審査委員6名が事前に書類審査と議論を行い、現地審査候補を9作品(住宅1件、一般7件、活動1件)に絞って現地へ赴き、設計者やクライアントと対話することで議論を深めていった。例年の公開審査は、昨年同様、今年は審査委員のみがJIA建築家会館に集まり、設計者はすべてオンラインでの公開プレゼンテーションとなった。
その結果、第22回のJIA環境大賞は「上勝ゼロ・ウェイストセンター」が受賞した。この建築は、新たな建築の可能性を大きく広げた作品である。自治体として初めてゼロウェイスト宣言を行い、建築家自らが取り組みに共感しつつ伴走し、新たな価値提案をすることにより実現した建築である。さらに上勝の主要産業であった林業に目を向け、木材を丸太のまま使うことで材料の最大化を計ったことなども含め、建築そのものがゴミの出ない循環として息づいている。この取り組みや運営方法や、建築のあり方は、世界的に進んでいる循環経済社会における、日本での先駆けとして、大いに評価できる作品であった。
今回活動としての応募である「飛騨高山の山林資源活用による、循環経済モデルの実践」の現地審査では、感動の体験をした。荒廃する山に建築家みずからが入り、地元(特に高齢者)の人々とともに山を守る決心をした点である。そのために、山の麓に設計事務所を構え、その前面に設けられた土場に運び込まれる木材を身近に感じながら、設計を行っていた。飛騨高山の街に一つ一つ丁寧に設計された住宅建築は、飛騨高山からの恩恵を十分に受けた、優しい建築であった。
また、「みやこ下地島空港ターミナル」は、現地審査に赴いた審査委員が身体的に気持ち良いと評価した作品であった。写真ではわからない、現地にいつまでも滞在したいと思うような心地よさが感じられる空港になっている。大きな庇を持つ外部、窓が開け放しの反外部、そして内部へとグラデーショナルな環境変化を実現するために、積極的な空調を行わず、気化式冷却システムのみで、人々にとっての心地よい居場所を作っている。光、風、水のパッシブエネルギーとグラデーショナルな環境が人間にとっては心地よい環境になると示した優れた建築である。
一方、「垂井町役場」は意匠、構造、設備が見事に統合されたリノベーションとして、新築以上に価値を創出した作品である。既存のショッピングセンターの躯体を最大限に利用しつつ、耐震補強として増設したバットレスの縁側のアウトフレームが庇効果による環境性能をあげ、外観の印象、大胆な光井戸、程よい木材の利用など建築家の力量が感じられる作品であった。機能との既存躯体との不合理性が全く感じられず、自然体でかつ以前より存在するような美しく強い建築として蘇っている。
建築家として何が可能か。そして建築として何が可能か。その問いは常に設計者には存在しているはずだ。課題の設定や問題の解決を創造的な力でもって実現していく。その形や姿は多様であっても良いし、それらを受け入れられるJIA環境建築賞にしたいと感じている。そして建築を創ることは、揺れ動くその中身(環境)を創ることであると同時に、こんな時代あるからこそ、人と人や思いと思いが交差する場を創ることだということを忘れないようにしたい。
審査委員長 小堀 哲夫