JIA 公益社団法人日本建築家協会

各種委員会・全国会議保存再生会議

JIA保存再生会議は、既に評価の定まった歴史的建造物のみならず、近現代建造物を始めとする多様な建築の価値を次世代に繋ぐための活動をしています。保存再生には、広義にはリノベーションも含みますが、建築本来の価値に捉われずにストックとしての活用を目指すリノベーションと、建築の文化的価値に主眼を置いた保存再生とは、必ずしもイコールではありません。各支部から選出された委員により隔月に開催される会議では、保存再生に係る地域の取り組みや活動に関する情報交換の他、その理念をより深めるための議論を行っています。また、WGを設置するなどして、次のような歴史的建造物の保存再生に関する取り組みも行っています。

1)「文化財ドクター派遣事業」への対応

保存再生会議は、「文化財ドクター派遣事業」に関する五団体による協定の、JIA側の窓口となっています。文化財ドクター派遣事業は、2011年の東日本大震災を契機に始まった文化庁の事業ですが、2021年に、同事業の事務局機能が(独法)国立文化財機構・文化財防災センターに常設されたことをきっかけに、文化財防災センター、(一社)日本建築学会、(公社)土木学会、(公社)日本建築士会連合会とJIA間で、「災害時における歴史的建造物の被災確認調査および技術支援等に関する協力協定」として新たなスタートを切りました。本協定の締結により、発災時に迅速な調査が行える体制が整備されたと言えます。なお、ドクター事業の実施に際しては、地域での各団体間の緊密な連携が求められることから、議長及び修復塾長だけでなく、各支部の保存再生会議委員が、連絡担当者として文化財防災センターに登録されています。

2)「近現代建造物緊急重点調査事業」への協力

本調査事業は、文化庁が実施する戦後から2000年までの、20世紀後半の建造物及び土木構造物に関する緊急重点調査ですが、建造物に関しては、文化財ドクター派遣事業と同様の、建築学会、建築士会、JIAによる協働により調査が行われます。調査は2015年度に神奈川、静岡両県から開始され、順次全国の都道府県で実施される予定です。本調査の対象建造物には、JIAの先輩建築家の設計による建築も多く含まれてくることから、JIA会員の積極的な参加が望まれるところです。
会議風景(2018年東京大会)
文化財ドクター派遣事業一次調査(2011年 岩手県遠野市)

3)「JIA文化財修復塾」の開講

会議内に対応WGを設置し、歴史的建造物の修復に関する知見を持つ建築家の育成を行っています。爾来、文化財建造物の修理は「文化財の中の建築というジャンル」という枠組みの中で、文化庁の外郭団体により養成された、高度な専門知識をもつエキスパートにより行われてきました。ただ、昨今では登録文化財制度による有形文化財数の加速度的増加や、近現代建造物を中心に、利活用を前提とした、従来の「修理」に留まらない「保存再生」が求められる状況となっています。修復塾の講義は60時間と、建築士会等で養成されているヘリテージマネージャーと同等となっていますが、履修した建築家には、「文化財である建築」に向き合うために、常により高度な知識・技術を習得する姿勢が求められます。 なお、文化財ドクター派遣事業、及び近現代建造物緊急重点調査事業の調査員には、歴史的建造物に対する一定程度の知識が必須とされており、JIAからの調査員への推薦は、文化財修復塾の履修を原則としています。
文化財修復塾現地講習(2019年 都城市民会館)
文化財修復塾について

議長からのメッセージ

建築をストックとしてではなく、消費すべきものとしか見ない「スクラップアンドビルド」の風潮は益々社会に蔓延しています。建築の除却を行いたい側は、老朽化、耐震性の不足、バリアフリーへの対応困難、機能面での劣化、環境性能の不足、といった、様々な理由を挙げて除却の正当化を図りますが、カーボンニュートラルの視点からは、建造物の除却こそ最大の環境負荷です。したがって、建築の保存再生は建築家の使命、というよりは、その職能存続のための最後の砦である、といっても過言ではありません。これからの建築家には、これらの性能上の問題を、建築の価値を損なわずに向上させ、保存再生する能力こそが求められます。JIA保存再生会議は、世界遺産条約における「オーセンティシティ(authenticity)」「インテグリティ(integrity)」といった主要概念を参照しつつ、「建築の真の価値を見出し次世代に繋ぐために、建築家に何が可能か」と言う問いを共有する、すべての建築家のプラットフォームとして、機能していきたいと考えています。