JIA 公益社団法人日本建築家協会

建築家の職能

建築家って、何をする人?

「建築家って、何をする人?」とあらためて聞かれると、その職業名は知っていても実際にどんな仕事をするのかは、意外にご存じないもの。
「設計図を描く人」「大工さんに指示する人」など部分的なイメージを持っていても本当の姿はなかなか伝わっていないようです。
そこで、建築家の仕事をわかりやすくまとめてみました。
「えっ、こんなことまでしてくれるの?」と驚かれるほど、さまざまなことをする建築家について新しい目を向けてください。

プロフェッショナルサービスと職能団体

建築家とはどんな職業? 建築家協会って何なの?
「建築家(architect)」とは建築の設計や監理、その他関連業務など建築関係のプロフェッショナルサービスを提供する職業です。そして建築家協会とは建築家による職能団体です。

では、プロフェッショナルサービスとは何でしょうか。そして職能団体とは?
プロフェッショナルサービスとは高度に専門的で、公共性の高いサービスのことを言います。たとえば医師、弁護士、建築家、会計士等の提供するサービスがそれにあたります。

誰でも、望めばどのような職業につくことも保証されている社会で、プロフェッショナルサービスを提供するには『資格』というハードルが課せられます。それは、必要とされる専門性も公共性も持たない人が提供する、質の低いサービスから消費者を守るためです。従って多くの国ではこのようなプロフェッショナルサービスを提供する人に対しては適切な教育、訓練、試験などによってその能力を判断し、資格あるいは免許の取得を義務付けています。その資格を得た人は、法律によって自由競争から保護されることになりますが、一方で、その公共性を維持するための義務を負うことになります。それが倫理規定の遵守であり、継続的な自己開発(継続教育)です。
WTOでも、サービス貿易自由化の議論の中では、プロフェッショナルサービスのこのような特徴を理解し、一般のサービスとは別のカテゴリーとして扱っています。
また、このような理由から、プロフェッショナルサービスには、常に一定のレベルのサービスが一定量提供されることが求められます。すなわち、誰でもが医師や弁護士、建築家にいつでも仕事を頼めるように、それらの人が十分な人数存在し、誰に頼んでも適切な質の仕事をしてくれることが必要なのです。そのためには適切な専門教育が必要ですし、人や仕事の内容について十分な情報が提供されることも重要です。
これらのニーズを満たし、社会に対して、そのプロフェッショナルサービスの質、すなわちプロフェッショナルサービスを提供する人の能力を保証すること、これがプロフェッショナル団体(職能団体)の大きな役割です。
つまり、プロフェッショナルサービスを提供するプロフェッショナル(資格を持った専門家、この場合は建築家)は、職能団体の会員となり、会員であることによって社会に対して自らの能力を証明するのです。

(社)日本建築家協会は、「建築士(国が定めた建築技術者の資格)もしくは同等の資質を持つ者」の中で、設計、監理サービスを提供し(建築士には様々な専門的職業に従事する人がおり、設計、監理は事実上その一分野となっています。)、当協会の倫理規定や、継続教育などの規定を遵守することに同意した人たちを会員とする職能団体です。

日本建築家協会が日本支部を務める国際建築家連合(International Union of Architects,UIA)では、プロフェッショナルサービスの国際的な自由化の時代の到来を予想し、1996年、「建築実務におけるプロフェッショナリズムの国際推奨基準に関するUIA協定」を作成し、国際的な比較のための建築実務サービスの基準を明らかにしました。1999年には第2版が承認され、既に「アーキテクト」の資格や実務の基準として様々なところで採用されています。

参考:建築実務におけるプロフェッショナリズムの国際推奨基準に関するUIA協定(抜粋)

プロフェッショナリズムの原則

建築プロフェッションのメンバーは、プロフェッショナリズム、誠実さ(integrity)、能力(competence)に関する諸基準を守り、そのことにより、建築環境(built environment)の持続可能な発展と文化と公共の利益に不可欠な、独自の技能と知的能力を社会にもたらすのである。プロフェッショナリズムの原則は、法律、倫理綱領をはじめ、専門家としての行動規範のもとで作られる。

専門性(Expertise):建築家は各自、教育、大学及び卒業後の訓練、経験を通して培われた知識、技能、理論の体系を保持している。建築に関する教育、訓練、試験のプロセスは、建築家がプロフェッショナルサービスに従事するにあたり、当該業務を適切に遂行するために一定以上の基準に達していることを一般の人々に対し保証するべく構成されている。さらに、大部分の建築家職能団体のメンバーおよびUIAのめざすものは、建築の芸術および科学に関する知識を維持し、発展させると共に、その成果を尊重し、その成果をより発展させるために寄与することである。

自律性(Autonomy):建築家は、専門知識に裏付けられた客観的で専門的な助言をクライアントそして/または、ユーザーに提供する。建築家は、豊富な学識と、妥協を許さない専門的判断が、建築の芸術および科学を遂行する上で、他のいかなる動機より優先されるべきであるという理想を持ち続けなければならない。また、建築家は、建築関連法規を遵守すると共に、専門的活動が社会および環境にもたらす影響を熟慮しなければならない。

委任(Commitment):建築家は、高度な無私の姿勢で、クライアントや社会の代理として仕事を行なう。この職業に従事するものは、適切かつプロフェッショナルとしてふさわしい態度でクライアントにサービスを提供し、その代理として偏見やかたよりのない判断を行なう責任がある。

責任(Accountability):建築家は、クライアントに対して行う、何ものからも影響されない、時に厳しい助言に対する責任と、自らの仕事が社会や環境に及ぼす影響に対する責任について、自覚する。建築家は、教育、訓練及び/あるいは当該の関係分野での技術的な経験によってその能力が保証されているコンサルタントとともに、プロフェッショナルサービスを遂行する。

UIAは、各国支部とPPC委員会のプログラムを通じ、公共の健康、安全、福祉に資するために、プロフェッショナリズムの原則とプロフェッショナルな基準の確立をめざし、プロフェッショナリズムと能力の基準を相互に認証することが、建築家業務への国民の信頼を維持し、また公共の利益をもたらすとする立場を支持する。
UIAの原則と基準は、徹底した教育と実務訓練の提供を目的とし、それによって建築家が基本的職能要件を満たすことができるようにするものである。これらの基準は、国によって教育の伝統が異なっていることを認め、教育の同等性を保てるよう留意している。