JIAの歴史
建築家の起源と建築家に求められること
エジプトの神官イムホテプが、世界最初の建築家と言われています。今から4,600年前のエジプト第三王朝の時代の階段ピラミッドの設計者です。
紀元前1世紀の古代ローマ時代、当時著名な建築家が書いた建築理論書には、理想的な建築家像として「建築家は学問、絵画、幾何学に精通し、歴史を知り哲学を解し、音楽を嗜み、医術、法律を理解し、天文学の知識を持ちたいものである」と書いてあります。後のルネッサンスの偉大な建築家、レオナルド・ダヴィンチやミケランジェロの出現を予感させます。
建築家に求められることは当時であれ、現在であれ基本的には同じです。建物の構造等における理工学的知識を基盤として、住む人の感性を満足させる文学的、音楽的素養、感受性をもって、その場所、地域に見合った哲学や歴史的背景を理解して、幾何学を駆使し絵画的にも美しい一つの建物を創造することです。現代では個々の建物だけでなく、住環境も含む街全体の再設計も建築家の役割となっています。
日本の建築家の歴史
日本には工匠制度があり、近世以前には建築家が存在しなかったと云われています。しかし、それが仏僧であっても、出雲大社や東大寺大仏殿を始めとする優れた建築物は8世紀の時代以前にも建造されています。僧や武士、そして匠の棟梁が建築家を兼ねていたのです。東大寺大仏殿を再建(その後再度焼失)した13世紀鎌倉時代の重源(※3)の東大寺南大門、浄土寺浄土堂は今でもその力強い様式を見ることができます。茶道や庭園で有名な17世紀江戸期の小堀遠州(※4)も、日本の代表的な環境建築家といえる存在です。
西洋的な意味での建築家第一号は、明治12年に東京大学工学部の前身である工部大学校を第1期生とする卒業生たちと言えます。辰野金吾が設計した今も残る東京駅をはじめ、日本銀行本店、赤坂迎賓館等々、日本近代建築を象徴とする作品が創り続けられています。そして西欧の途方もない文化を吸収しつつ、日本の歴史文化を取り入れた、現代風でありながら和風を取り入れた斬新かつ落ち着きのある作品も多く創られています。
建築家協会の歴史
世界最初の建築家協会は、イギリスで創立されたRIBA(英国王立建築家協会)です。今から170余年前、1837年のことです。アメリカでは1857年にAIA(アメリカ建築家協会) が創立され、日本では1886年、アメリカに遅れること30年に、造家学会が創設され、当時は全員が建築家であり建築設計者であることが会員に要求されていました。この造家学会が、今の日本建築家協会の起源と言えます。明治開国とともに新しい西洋的建築が導入されたことにともない現代的な意味での建築家も輩出し始めました。
その第1回生が工部大学校(東京大学工学部の前身)の辰野金吾たちで、日本銀行本店、東京駅、赤坂迎賓館等をつくってきました。その後、造形学会は日本建築学会と名を改めますが、大正3年(1914年)に学術団体としての色彩を強めた日本建築学会から別れ、建築家集団として全国建築士会が成立します。そして戦後、昭和25年(1950年)に建築士法が制定されました。1947年に日本建築設計監理協会、そして1955年の世界建築家連合への加盟に伴い、翌56年に改組・改名して日本建築家協会となりました。その後日本建築設計監理協会連合会と合併し、1987年新日本建築家協会として再スタートを切り、それが現在のJIAとなります。1996年に名称を日本建築家協会と変更し、現在に至っています。2013年4月、公益社団法人に移行しました。
写真の前列左端に佐立七次郎、その右に片山東熊、その右が明治期の建築界の中心人物といわれる辰野金吾、その右後ろに曾根達蔵といった諸先輩。
社会貢献する建築家団体
現代の建築家は単に設計の発注者のための代理人であってはなりません。その建築が建つ街並み、都市景観に責任を持つだけでなく、地球環境に対しても配慮しなければなりません。建築家協会は美しく、安全な都市建築をつくろうとした創成期の建築家の意思と日本の建築家の祖ともいえる重源の無私の心、社会奉仕の心を受け継ぎ、120年の伝統を踏まえるだけでなく、新しい時代の役割をしっかりと認識し、今日、建築家の社会公共に貢献するための団体として活動していきます。
2011年UIA東京大会の開催
JIAは日本を代表して国際建築家連合(UIA)(※5)に加盟しています。
UIAは世界約124ヶ国、130万人の建築家が所属しており、JIAは国際的な建築家としての責任と倫理を保証する団体として認められています。AIA(アメリカ建築家協会) と1989年に職能協定を結び、またARCASIA(アジア建築家評議会)を中心にアジアの建築家とも 交流しています。2011年にUIA東京大会が開催されました。世界の建築家を含めて5,000人が参加する大会となりました。
公益社団法人日本建築家協会歴代会長
- 初代会長 丹下 健三
- 第2代会長 北代 禮一郎
- 第3代会長 林 昌二
- 第4代会長 鬼頭 梓
- 第5代会長 穂積 信夫
- 第6代会長 村尾 成文
- 第7代会長 大宇根 弘司
- 第8代会長 小倉 善明
- 第9代会長 仙田 満
- 第10代会長 出江 寛
- 第11代会長 芦原 太郎
- 第12代会長 六鹿 正治
- 第13代会長 佐藤 尚巳
- ※1 プロポーザル方式/設計体制・設計方法・プロジェクトに対する考え方等についての技術提案書を求め、設計を委託するに相応しい組織と人を選定する方式。委託要綱が整備された段階で応募を求めるもの。
- ※2 QBS方式/設計担当者の資質・実績・代表作品等を評価し、プロジェクトに相応しい人を選定する方式。具体的な設計案は求めない。委託準備の初期段階で選定する方式。
- ※3 重源(1121-1206)/鎌倉初期の浄土宗の僧。号、俊乗房。何度か入宋したといわれ、大仏様(天竺様)により「東大寺南大門」「浄土寺浄土堂」などを建築した。
- ※4 小堀遠州(1579-1647)/江戸初期の茶人・造園家。近江の人。遠江守。豊臣、徳川に仕えた。「慶長内吏」「二条城・二の丸庭園」「大徳寺狐蓬庵忘筌」など。
- ※5 UIA/1948年にスイスのローザンヌにおいて、いかなる国籍、人種、宗教、あるいは建築的信条を問わず、世界中の建築家を束ね、その国を代表する組織を連合するために設立された。現在では124 の国と地域のキーとなる建築家職能集団体が加盟し、130万人超える世界中の建築家を代表するに至っている。